Apple Watchで命拾いしたかもしれない話 – EP1

Image by Tom from Pixabay

※以下、心房細動と治療法について触れていますが、これは私が聞き齧った情報です。医療関係者ではないので、誤って認識している可能性があります。また治療に関しては私自身の症状とお世話になった医療機関の例です。症状や医療機関によっては対応が異なる可能性があります。詳しいお話しは専門の病院、医師に相談されることを強くお勧めします。

前回からの続き。

カテーテルアブレーション手術

事前検査

造影剤を使ってCTスキャンで心臓の形状を撮ります。予め形状を撮っておくことで、手術中の放射線量を格段に減らせるとの事。(3Dモデルを作っておいて、それを手術で利用するので放射線の使用を少なくできるそうです。それにしても自分の心臓の3Dモデルを作るって不思議ですね)

巨大なCTスキャンの装置はSF映画から出てきたようです。

造影剤が入ると頭がかっと熱くなり、それが背中、股間へと拡がって行きます。じわりと拡がる熱に漏らしたのかと思った。

CTが稼働する音はまるで波動砲の充填音。エネルギー充填120%。カウントダウンが聞こえてきそう。

手術内容の説明

医師からカテーテルの太さ、本数、手順の説明を受ける。太さ数ミリ(ストロー並みに太くね?)のカテーテルを5、6本使用する。挿入ルート、ここからこうなっって心臓の壁を。。。などなど、聞けば聞くほど怖い。(玉ひゅんです)

手術中は安定剤、鎮痛薬で眠った状態というので少し気が楽になる。

コーディネーターと打ち合せ

事務手続き、入院時の持ち物などの話を伺う。準備リストはまるで修学旅行。この段階でなぜかちょっと楽しくなる。

入院前日

準備リストに沿って必要なものを買いそろえ、バッグに詰め込む。爪を切る(これもリストに書いてある)。人生初の手術に徐々に緊張しはじめる。なるべく考えないように普段どおりに過ごす。

カテーテルアブレーション

Day1 入院

昼過ぎから入院。手続きを済ませて病室へ。緊張感マックス。キョドりながら病室にたどり着く。

パジャマに着替えたら、早速楽しい剃毛タイムの始まりです。うら若い看護師さんがバリカン片手に登場。

思春期なら耐えられない恥ずかしさでしょうが、おっさんなので無問題。バリカンでジョリジョリと剃られる。痛い。

鼠径部(ちんこの周り)、太腿、股間、太腿の裏側、思ったより範囲が広い。

消毒の範囲でしょうか?この範囲の広さの理由は後に分ります。

シャワーを浴びて終了。すっきり、すべすべになった股間はまるでちびっ子です。少年のようだ。

なお、剃った範囲が狭かったらしく、この後2度にわたって再剃毛が行われます。看護師2名に確認されながら行われるそれは、ちょっとした羞恥プレイです。(そっち系の性癖がないことが確認できました)

Day2 手術当日

顔を洗い、事前の指示に従ってヒゲを剃り、歯を磨いて手術に備える。この日は食事は抜きです。

さて、いよいよ看護師さんと準備がはじまります。

「動脈は血圧が高いので、ぴゅーっと出血するので、術後は板のような物で押さえて止血するんですよ」
「人によっては焼灼で胸に熱を感じることもあるようですよ」

と、気さくな看護師さんからのミニ知識。

「ぴゅーっと出血」とか「熱を感じる」とか手術中は眠った状態って聞いているんだが?そんなことあるの?直前にコワイからその情報、いらないから。

とはいえ、すでに手術は目前。逃げ場はありません。なぜか不思議なほど落ち着いている。意識があるならあるで、それはそれで状況を観察できそうです。

尿道カテーテル挿入

手術前に尿道カテーテルの挿入。想像すると怖いが、大人なので平然と構える。これがなかなかキツい。

「さて、そろそろ尿道カテーテルいれますねー」
「初めてなので、お手柔らかにお願いします」
「はい、じゃあ口を大きく開けて深呼吸してくださーい」

と同時にプスリ、にょろにょろにょろー、不快感が侵入してくる。覚悟はしていたものの、想像の100万倍はキツい。形容しがたい気持ちの悪い痛みが走る。それがずんずん奥まで進む。さらに進む。ずんずん、まだまだ止まらない。

「はぁうぁーーーーーーー」

思わず声が出る。病室に響き渡るおっさんのうめき声。(同室の皆さんごめんなさい。)いままで感じたことのない気持ち悪い痛みが局部に走る。

カテーテルの侵入はそれでも止まらない。

「はぁあ゛あ゛ぁあ゛ぁーーーー~~~」

これが2,3回つづく。なんかカテーテル往復してない?人生観が変わります。

挿入後は違和感が残りますが、すぐになれます。それほど痛くはないが、うっかりカテーテルが引っ張られると局部に気持ちわるい痛みが襲いかかります。

カラダを動かすのがとても怖い。引っ張られるのがとても怖い。

おそらく釣り針を飲み込んだ魚って、こんな気分なのでは?暴れたら痛い。こちらは釣り針にかかったちんこですが。

ここで大人おむつを装着。手術着へ着替えます。

手術室へ

開始時刻11:30、手術室へ。

ちんこ釣られたおっさんは、もう歩けません。怖いから。

車椅子に乗せられて一路手術室へ。カテーテルのスタンドが倒れて、あれが引っ張られたりしないか不安に駆られます。想像するととても怖い。

手術室、そこはドラマに出てくるような室とは違います。白い壁に明るい無影灯、そんなドラマのシーンを想像していましたが、薄明かりに照明に巨大なスクリーン(100インチぐらい?)、手術台(これがまた想像以上に小さい。人がぎりぎり乗る大きさの人型の皿のよう)、それらを取り囲むように並ぶ機器類と夥しいケーブル。

全体的に手術室というより、どこか倉庫か整備工場のようです。スパナや工具が転がっていても違和感ないでしょう。

手術台に横たわると、薄暗い中、たくさんのスタッフ(10人ぐらいはいたか?)が一斉に準備を始めます。背中、胸、頭と全身につぎつぎに電極が貼られていきます。

血圧計が巻かれ、指には酸素濃度計のクリップがはさまれる。

「お名前は?」
「アルコールのアレルギーはありませんか?」
「イソジンでアレルギーは?」
「キウィやパイナップをたべていがらっぽく感じたことは?」(そういうアレルギーもあるのか?)

本人、アレルギーの確認が続く。

「これ、前にお話しした温度センサーです。食道に入れます。口から飲み込んでみて」

担当医から太さ2mmぐらいのセンサーをのどに挿入される。チューブに銀色の端子が10個ぐらい並んでいる。飲み込めないことはなさそうだが、考えるより先に挿入される。

オエッ、オエ、なんどか吐きそうになりながら飲み込む。涙目です。

(心臓を焼灼している間、食道からこれで温度を観察する温度センサー。高温になり過ぎるのを避けるそうです。心臓と食道って近いんですね)

酸素マスクの装着。透明で分厚いマスクがかぶせられる。このマスク、呼吸の状態によっては加圧してアシストする優れものらしく、ヒゲを剃るように指示されたのは、これの気密性を保つためでしょうか?

天井を見上げる。ごくごく普通の石膏ボード。事務所の天井のようで、そこだけなんか日常で不思議です。そんな事を考えていると、

「点滴から鎮静剤(鎮痛剤?、聞き取れず)入ります」

ああ、いよいよか、麻酔早く効くといいな。。。

と、ここで突然意識が途切れる。何の予兆もなく途切れる。ブレーカーが落ちたみたいプツンと途切れる。

幻覚?

胸のあたりでなにか白い塊がふわっと浮かび上がる。テニスボールぐらいの大きさ、白くて細い繊維が格子状に絡まったふわふわした塊が現れては消える。あたたかい。

足下で先生がカテーテルを操作している、

白い塊は四角形に変わり、またふわふわと現れては消える。あたたかい。

遠くから「終わりましたよ」と声を掛けられた、ような気がする。ここまで記憶が曖昧で、おそらくすべて幻覚だと思います。

ECU/HCU(いわゆる集中治療室)

目を開ける、手術室ではないようだ、すぐに意識が途切れる。

目を開ける、左側に点滴のスタンドが見える。また意識が途切れる。

目を開ける、腰のまわりに鈍痛。徐々に意識がハッキリしてくる。

目を開ける度に認識できる世界が拡がっていく、不思議な感覚です。どうやら個室のようだ。

普段寝て起きるのと違って、意識がちょっとずつ、ちょっとずつ拡がっているような感覚です。(ブート中に少しずつプロセスが立ち上がっていくのに似てるんだが、コンピューター系の人じゃないと伝わらないな、これ)

すぐ隣の部屋で看護師さんたちが動き回っている気配がある。電話の音が聞こえる。

この間、5分ぐらいだったような気もするし、数時間だったような気もする。

ようやく意識が回復して、この日初めての食事。起き上がれないので寝たまま頂く。(病院のベットって便利ですね)

美味しい。

ここで鼻に酸素のチューブが挿さったままなのに気付く。まだ朦朧としている。

スマホを受け取って、身内へメッセージを送る。無事に手術終わったよ。この時点で夕方の6時を過ぎているのに気がつく。3時か4時ぐらいだと思ってた。だいぶ眠っていたようです。

経過観察

そのままECUで一晩経過観察。

事前に看護師さんから聞いたように、鼠径部ががっちがちに固定されている。足を曲げると(止血帯が緩んで)出血するので常に伸したまま。

身動き取れず寝返りができない。腰や背中が痛む。看護師さんに腰に枕を入れて貰う。それでも痛みが収まることはなく、眠れない。

深夜ようやくウトウトするが、自分のいびきで目が覚める。なにそれ。ほとんど眠れぬまま朝を迎える。

Day3

朝食を終えて、ようやく止血テープが取り除かれる。

粘着性が高く、なにか液体(アルコール?)を塗りながらビリビリと剥がされる。剃毛の範囲が広かったのは、このテープも理由のようです。剃り残しの部分は毛がテープにくっついて痛い。

傷口の確認。すこし大きめの絆創膏が左右足の付け根2箇所に貼ってある。心臓の手術の傷跡が絆創膏2枚で拍子抜けする。

「出血もないので、このあとシャワー浴びても大丈夫ですよ」
「シャワーの後は傷がなくなるまで市販のバンドエイドとか絆創膏貼ってください」
「あとは、退院に向けて歩いてカラダを慣らしてください」

熱を測ると36.8℃の微熱。目の周りが熱っぽい。不快なほどではない。

尿道カテーテルが抜かれ。ここでおむつ撤去。パンツに復帰する。開放感がすばらしい。人類バンザイ。

車椅子で病室へ戻る。

ゆくりと身体を動かす。鼠径部の痛みで歩きにくい。右側の痛みが強い。足を引きずるようにトイレへ。カテーテルの影響か射程が定まらず飛び散る。

ゆっくりと病棟を歩いて一周。明日はなんとか歩いて帰れそう。

微熱

夕方、熱が上がりはじめる。37.6℃。胸に少し違和感。(パッサパサの食べ物がのどに詰まったよな感じの違和感)痛みはない。

看護師に相談すると、よくあることらしく担当の先生も看護師も平然としている。そういうものらしい。

心臓の手術の後でもあり、微熱がでても不思議はない。

その後、38℃まで熱が上がり、ロキソニンを処方される。ひどい汗をかいて何度が着替えする。替えをもっと余分に持ってくるんだった。

Day4

やや寝不足で朝を迎える。微熱は残っているが、気分は爽快。

退院の準備をはじめる。外していたApple Watchを装着。

ここで心電図を録ると「心房細動の症状」の無慈悲なメッセージが表示される。治療したはずなのになぜ?

看護師に相談。心電図を確認してもらう(入院中は24h心電図をつけているので、データが確認できる)

昨夜、微熱がではじめた頃から傾向がでていたとのこと。担当の先生は学会で不在。週明け以降に相談することになる。

あとで確認したら、術後はかえって症状が出やすくなるそうです。落ち着くまで、だいたい3ヶ月ほど掛かる。

症状が安定するまで術後しばらく経過観察です。

その後も微熱、心房細動の症状が続くが、そのまま退院。

自宅へ戻っても症状が続く。しばらくして、ようやく治ったと思ったら、今度は頻脈。なかなか落ち着かない。

シャワーを浴びて就寝。シャワー後に股間を覗き込みながらバンドエイドを貼る。つるつるの股間を覗くおっさんは絵的にかなりキツい。それにしても傷跡が小さい。じっくり探さないと見つけられない。記念に写真を撮ろうかと思ったが、需要がなさそうなので撮るのをやめる。

夜中、ひどい汗で2回着替える。

翌日の土日には微熱も下がり、平熱へ戻る。寝返りを打つと胸に痛みを感じる。前述のノドに何か詰まったような感じがつづく。何度か心電図を録ってみるが心房細動は出ていない。

本や映画を観てゆっくりと過ごす。

余談

入院中、Apple Watchで症状に気づいた点について何度か看護師から聞かれる。担当看護師は日中と夜間、日によって違う。その辺りはちゃんと情報共有しているようです。患者としては安心材料で、とても助かる。

カテーテルアブレーションは、一般的に3泊4日で退院。その翌日からデスクワークはできると言われています。とはいえ、それなりに体にダメージも残る。1〜2日は休めるよう退院を週末に合わせおいたのは正解でした。

Apple Watchで命拾いしたかもしれない話 – EP0

Image by Karolina Grabowska from Pixabay

※以下、心房細動と治療法について触れていますが、これは私が聞き齧った情報です。医療関係者ではないので、誤って認識している可能性があります。また治療に関しては私自身の症状とお世話になった医療機関の例です。症状や医療機関によっては対応が異なる可能性があります。詳しいお話しは専門の病院、医師に相談されることを強くお勧めします。

私の父親は心臓が悪くて、ある日突然倒れました。家系的に同じような症状がでることは十分考えられます。これが杞憂であればいいのですが、その後、杞憂ではなかったことがわかります。

予防対策

予防の意味で心電図機能の付いたApple Watchをつけ始めたのが3年前。当初はApple Watchを買う言い訳が半分、健康面が半分といった理由です。

使い始めて最初の1年は何事もなく過ぎます。ある日、初めてApple Watchにメッセージが表示されます。この時は頻脈のメッセージ。これはお酒を飲んでいたタイミングだったこともあり、それほど気にしていませんでした。(お酒飲むと心拍数上がりますよね?)

その後は何事なく過ぎ、さらに1年後、ある朝起きると「心房細動」の通知が届いています。まったく自覚症状はありません。とはいえ、即日かかりつけの医師へ相談、近くの総合病院を受診する流れになります。

Apple Watch からの警告

Apple Watchは定期的に心拍数をモニターして異常を見つけると警告メッセージを表示します。
Apple Watchには心電図を録る機能がついていますが、この段階ではいわゆる「心電図」としてのデータは記録されていません。心拍数の状態から推測して警告を出すようです。

心電図を録るには、Apple Watch本体を操作して30秒ほど安静にしていると波形が記録されます。つまりちゃんとした心電図を録るには本人が意図的に操作する必要があります。

記録を確認すると深夜3時ごろから5時ごろまで、2時間に渡って症状が出ています。この時点では上記のような理由で警告が記録されるだけで「心電図」としての記録はありません。

病院の検査

病院の検査ではホルタ心電図(つけたまま長期に記録できる心電図)を4週間装着することになります。

ホルタ心電図は腕時計ぐらいの大きさです。(ちょうどApple Watchと同じぐらいの大きさ)
これをテープで固定して生活すること4週間。普段通りの生活ができます。

その後、心電図のデータが解析されて医師の診断です。
結果はというと、症状の兆候はあるが、心房細動の症状は出ていない。心房細動の診断を下すには証拠不十分、経過観察で数ヶ月後に再診ということになりました。

症状確定

その1ヶ月後、Apple Watchに再び心房細動のメッセージが表示されます。やはり自覚症状なし。

さらに1ヶ月後、寝起きに血圧を測ると値が安定しません。血圧を定期的に測っている人はわかると思いますが、多少の変動はあっても値はそれほど変わりません。それが、心拍数が大きくぶれます。動悸のような感じもあります。
Apple Watchを操作して心電図を録ると、まさに「心房細動の兆候」が表示されます。数分して録り直しても同じ。それを何度か繰り返しますが、なかなか治りません。その後2時間ほど症状が続いて、ようやく落ち着きました。

心電図の記録をPDFに出力、印刷して病院を受診。これには症状がハッキリと出ていたらしく、それが決め手で心房細動の診断が確定します。この段階でカテーテルアブレーション手術を提案され、即日、薬の処方が始まります。

心房細動が続くと血液のうっ血で生じた塊が脳梗塞や、心臓そのものの機能低下による心不全などの原因になります。血が塊を作らないよう投薬(いわゆる血液をサララサにする薬)を行います。

そもそも当初は自覚症状がなかったものの、一度認識できてしまうと、不思議なことにその後は自覚することができるようになります。これがなかなか不快でメンタルにきます。かなりのストレスです。

カテーテルアブレーションは心房細動を引き起こす神経を焼灼(やけど)して治療します。この治療で8割は症状が改善、完治します。期間も手術も含め3泊4日の手術です。だいぶカジュアルな治療に思えますが、心臓の手術ですよ、これ。

ここから手術に向けて動き出します。仕事の日程、主治医、手術室の日程を調整して予定が確定します。

手術以外の選択肢は?

人生初の手術に対する不安もあります。薬物による治療など、他の選択肢はないのでしょうか?この点が気になって、担当の先生に伺うと、

  • 症状と年齢を考えると、体力的にいま手術するのが良い。(高齢になると治療が難しくなるケースがある)
  • 早期の治療で効果もでやすい。(症状が進行すると成功率が低下する?)
  • 投薬は一生涯つづく(症状が薬で改善することはない)
  • 逆にやらないのは今後の人生を考えるとチャレンジング

ということで、カテーテルアブレーションがベストの治療法のようです。プロの意見を尊重して手術することに決めました。

つづく